恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「そっちが弟の部屋で、こっちが私の部屋です」
そう説明しながら、真琴は自分の部屋のドアを開け、古庄を中へと招き入れる。
足を踏み入れた瞬間に、いつも真琴から感じる満開の桜の香りに包まれたような気がした。
真琴が淡いピンクの花柄のカーテンを開け、公園に面した出窓を開けると、気持ちの良い風が入ってくる。
真琴は同じ色合いのカーペットの上に、クローゼットから出した小さな丸いテーブルを出しながら、
「歩いて喉が渇きましたね。下から何か持ってきます」
と告げると、軽快に部屋から出て行った。
一人にされて、古庄はきょろきょろと辺りを見回す。
今はここで暮らしてないとはいえ、真琴が大学を卒業するまでずっと使っていた部屋だ。
真琴が幾度となく着いた机に、何度も体を横たえたベッド…。
真琴を育ててくれたこの部屋から、その時その時の彼女の息吹が感じられるようで、古庄は机の上に飾られたリヤドロの人形や出窓に置かれた小さなオルゴールさえも愛おしくなった。
「お待たせしました。下に、母が帰って来てました」
と、戻ってきた真琴は、窓辺に立って物思いをしていた古庄へと声をかけた。
紅茶が入ったカップを二人分、お盆に載せている。
「ここからは、公園の緑が見渡せて気持ちがいいね」
テーブルにカップを並べていた真琴は、そう言われて立ち上がり、古庄の隣で並んで外を眺めた。