恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
正志が勘ぐった通りだ。
彼が高校に入学した時、何か部活をしたいと相談されて、ラグビーはどうかとアドバイスしたのは誰でもない真琴だ。
その時に、自分の弟も自分の好きな人のようになってほしいと、思わなかったわけではない。
「……和彦さんのことを、『そいつ』なんて呼ばないで。それに、私はそんな風に強制はしてないわ」
真琴も、小さな子供みたいにヘソを曲げて、いつまでも突っかかってくる正志に苛立っていた。
「でも、自分の理想を押し付けて!そいつだって言ってただろ?都留山のラグビー部は大変だって。お陰で僕はいい迷惑なんだよ!」
正志のあまりに激しい反応に、真琴は表情をこわばらせた。言葉を逸して、澄んだ瞳に涙が浮かぶ。
もし正志が生徒だったならば、古庄は少し強い語調でその態度を諌め、諭して謝らせただろう。
だけど、気心の知れていない義弟相手では、そうはいかない。
真琴を守ってあげたいのはやまやまだったが、古庄が口を出せば、状況はいっそう悪くなるのは必至だった。
「正志!お姉ちゃんに向かって、なんてこと言うの!!謝りなさい!!」
古庄が気を回すに及ばず、ここにはちゃんと正志を叱ってくれる母親がいた。
しかし正志の方も、母親にこう言われて謝るくらいなら、激しい言葉を吐き出す前に思い止まっているはずだ。
「……なんだよ。お姉ちゃんなんて!僕なんかより、そいつの方が大事なんだな!?」
そう言い放つと、リビングのドアをバタンと大きな音を立てて閉めながら、正志は再びその場からいなくなった。
気まずい雰囲気が漂う中、気持ちを切り替えて、母親と真琴は夕食の準備を再開する。
けれども古庄は、リビングに父親と二人きりにされて、もっと気まずい状況になった。
先ほど正志が起こした騒動の間も、父親はただ黙ってソファーに座り、われ関せずとばかりに手元にある雑誌をめくっていた。