恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「そうよ。忘れてたわ。お父さんの毎日のお楽しみを。古庄さんもご一緒にいかが?」
そう言いながら、母親が冷蔵庫へと立った。
「…いや、僕は車で来てますから…」
と、古庄は真琴と顔を見合わせながら答える。
「あら、泊まっていけばいいじゃないの。明日はお休みだけど、仕事があるの?」
仕事はなくはない。
古庄が顧問をするラグビー部は、花園予選に向けて、特に土日は猛練習をしている。本来ならば、古庄も練習に出て指導をするべきなのだが…。
でも古庄は、今は真琴の家族と一緒にいることの方が大事だと思った。こんな打ち解けていない状態で帰ってしまったら、ここに来た意味がない。
「いえ、仕事はありません。僕もビール、頂きます」
と古庄が答えると、
「部活の方は大丈夫ですか?」
と、真琴が心配そうに訊いてくる。
「大丈夫。塩尻先生がついてれば、心配ないよ」
古庄はそう言いながら、ビールのグラスを受け取った。
ビールを酌み交わせば、少しは父親との会話も楽しく弾むのでは…という期待もあった。
けれども、父親は缶ではなくて瓶ビールを、1日に1本と決めているらしい。
真琴の堅実さは、この父親譲りなのかもしれない…。
父親は古庄と打ち解ける間もなくそれを飲み終わり、腹を割るほど酔っぱらってくれてもいない。
当然、父親が飲まないのに古庄がそれ以上ガブガブ飲むわけにもいかず…、結局アルコールは何の助けにもなってくれなかった。
話をするのは、真琴と母親ばかり。
それも、肝心な話はできず、近所の人の話だったり世間を騒がす事件のことだったり、当たり障りのないことが話題に上っていた。
男3人はただ黙々と料理を口に運び、真琴が母親を手伝う合間に、手早く作っておいたイチゴのムースを食べ終わった時には、すでに8時をずいぶん過ぎていた。