恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
もともと女性に対して、無関心状態だった古庄だ。
全校生徒の前であんなことをされた上に、こんな風に優しくされている場面がたびたび目につくようになると、結婚しているのがバレてしまうのではないかと、気が気ではなくなる。
「結婚」までは露見しないにしても、自分たちの仲を訝られるようになるだろう。
素直な性分の古庄は、気持ちのままに行動し、真琴への愛情も躊躇することなく表現してくれる。
あの優しい眼差しに応えたいとは、もちろん思っていても、不器用な真琴はうまい具合にそれが出来なかった。
この状態が春の異動まで、あと半年間続くのかと思うと……。
真琴は、膝小僧の傷に絆創膏を貼りながら、深い溜息を吐いた。
終礼を終えて生徒たちを帰した職員室は、和やかな雰囲気が漂っていた。
この週は、火曜・水曜に文化祭が行われ、古庄が面目躍如とばかりにホッと一息ついたのも束の間、金曜日には体育大会が行われる行事ウィークなのだ。
体育大会が無事に終わると、後は週末を待つばかり。
折しも、桜野丘高校の近くの神社で放生会が行われるとのことで、参道には露店が立ち並び、学校を取り巻く空気さえも解放感に満ち溢れていた。
「…賀川先生。これ見て」
いつもは舐めるように新聞を読んでいる古庄が、珍しくパソコンを開いて見ている。
真琴がぎこちなく、古庄の背後からパソコンを覗き込んでみると、画面には日本庭園に囲まれた趣のある日本家屋が映し出されていた。
「ここ、キャンセル待ちしてたんだけど、明日の予約が取れたんだ」
意味が分からず、真琴がしげしげと画面を確かめる。
「……!」
画面にある文字には、「藍沢温泉 山荘 多無良」とある。
要するに旅館の予約が取れたという話らしく、それをわざわざ真琴に告げるということは…。