恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「古庄さん。今お風呂を入れてますから、お先にどうぞ」
母親が、そう古庄に声をかけた。
「あっ、でも。泊まるつもりじゃなかったから、着替えとか持ってきてないわ。私のは置いてあるけど…」
真琴がそのことに気が付いて、口を開いた。
「古庄さんの寝間着は、お父さんのを使えばいいわよ。でも、下着は…」
母親が考えあぐねた時、古庄が口を挟む。
「下着は、近くのコンビニで買ってきます」
そう言って、古庄は家を出た。
昼間散歩をしたときに、近くにコンビニがあることは確認済みだ。
言いようのない緊張感から解放されて、古庄はホッとため息を吐く。
いつの日か、居場所のないようなあの雰囲気が解消されて、自分は家族の一員として受け入れてくれるのだろうか…。
そんな不安が、古庄の胸に去来する。
でもこれも、自分がしたことの報いなのかもしれない。
早く真琴を自分だけのものにしたくて、一足飛びで「結婚」という手段を強行してしまったが、本来ならば、きちんと挨拶をしてそれから入籍をするという、順番を踏まねばならないことだ。
真琴の父親の堅実さを見れば、どれだけ戸惑っているのかは想像に難くない。
考えてみれば、堅実で思慮深い真琴が、あの時よく結婚に同意してくれたものだと思う。
それだけ自分が強引だったのか、それとも堅実な常識よりも自分への想いが勝ってくれていたのか…。
そんな風に真琴の心を推し量ると、古庄自身、真琴への想いが募って胸がキューンと苦しくなった。
道端の電柱に手をついてもたれかかり、胸を押さえてこの甘い痛みにしばし耐える。
側を通っていく数人から、気味悪そうに振り返られた。
――…あ、もしかして俺ってアブナイ奴かも……
不審者扱いされて賀川家に迷惑をかけてもいけないので、何とか気持ちを落ち着けて、古庄はコンビニへと向かった。