恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「なんだよ!じゃあ、お母さんはどう思うの?言ってみてよ!!」
「……正志。少し黙りなさい」
テレビを見ていた父親が、正志を一瞥して一言そう言った。
普段口を出さない父親のこの一言には、異様な威圧感がある。
正志はグッと言葉を呑み込んで、それ以上何も言えなくなった。
「お風呂ありがとうございました。すみません、最初に入らせていただいて。気持ちよかったです」
辺りを取り巻いていた沈黙を破って、古庄の声が響いた。
さっぱりして、まだ髪を濡らしたままの古庄がリビングに姿を現す。
父親のパジャマは少し丈が足りないにもかかわらず、古庄は思わず見とれてしまうほどだった。
古庄が近寄って来たので、真琴はとっさに頬を伝う涙を拭う。
でも、今一緒にいたら、泣いていたことを古庄に気取られるだろう。
「…私も、お風呂。入ってきます」
顔を見られないように、真琴は古庄と入れ違いでリビングを出た。
自分の家族のもとに、古庄を一人で残して来るのは心が残ったが、今は却って心配させてしまう。
真琴のいないところで、家族と対峙することになった古庄は、その雰囲気が普通ではないことを敏感に感じ取った。
漂っている険悪さを払しょくするように、気を利かせた母親が声をかけてくれる。
「どうぞ、こちらに座ってください。お風呂上がりですから、何かお飲みになります?」
「いえ、お構いなく」
古庄が遠慮しながらそう言って、誘われたところへ腰を下ろしていると、思いがけず父親が口を開いた。
「お母さん、お茶を淹れてくれないか」