恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
私の居場所
「あら、真琴。ずいぶん早く上がってきたわね」
「……う、うん」
母親の問いかけに、真琴は生返事をする。
逃げるようにリビングを去ったものの、やはり家族のもとに古庄を一人にするのは気がかりだったのだ。
しかし、両親と共にソファーに座る古庄の落ち着いた表情を見て、真琴は安心した。
「…さて、お布団の準備でもしましょうか」
と、母親が立ち上がるのと同時に、父親もソファーを立つ。
「お父さん、お風呂?」
「うん…」
と夫婦の会話を交わしながらリビングを出て行くと、そこには若い夫婦が残された。
「正志ちゃんは…?」
と、真琴が辺りを見回す。
「正志くんは、自分の部屋にいるよ」
という言葉と同時に微笑みも受け取って、真琴は息を抜いてソファーへと腰を下ろした。
しかし、落ち着く暇もなく、奥の部屋から母親の声が響いてくる。
「あらまあ!どうしましょう。困ったわ…!」
何事かと、二人が声のした方へ振り向いてみると、母親が慌てた様子で駆け込んで来た。
「あのね、お客さん用のお布団。そう言えば今、クリーニングに出してるのよ。この前買った新しい分が一組しかないのよね…。二人でお座敷に寝てもらおうと思ったんだけど…」
そう言って母親が事情を説明すると、二人は顔を見合わせた。
――…別に、一つの布団に二人で寝てもいいんだけど……
古庄はそう思いながら、真琴が同じ答えを出してくれるのを待った。
どちらにせよ、二人で身を寄せ合って、真琴は古庄の腕の中で眠るのだから…。
「…わかった。じゃあ、その布団は和彦さんに寝てもらって、私は自分の部屋のベッドを使うから」
――……あ、あれ……?
古庄の期待は見事に外されて、真琴はいつもの通り、極めて合理的で適切な答えを出した。
古庄は心の中で、がっくりと肩を落とす。