恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②



古庄だって、もう眠っているに違いない。

……でも、一目だけでも安らかな寝顔を見たい。

一目見て心が満たされたら気持ちも落ち着いて、自分の部屋に一人で戻っても、きっと眠れると思っていた。


音を立てないように襖を開け、ほの暗い和室に入ると、常夜灯に照らされた古庄の背中が見えた。

足音を忍ばせて近づき、枕元にひざまずく。


すると、真琴が覗き込む前に、古庄は寝返りを打って目を開けた。


「あっ…!ごめんなさい。起こしてしまいましたね」


古庄よりも、真琴の方が驚いて身をすくめた。


「真琴…?いや、うとうとしていただけだよ。…どうした?」

と、寝床から見上げられる。


どうした?と訊かれても、別にどうもしていない。


ただ、顔が見たかっただけだ。

…ただ、離れて眠るのが寂しかっただけだ。


真琴は口ごもったけれど、切ない想いは目に、表情に表れる。

古庄は布団をはぐって自分は端に寄り、真琴のための場所を作ってあげた。



「……おいで」



古庄が招き入れると、真琴はそれに素直に応じ、古庄の隣に体を横たえた。


布団の中で、古庄の腕に包み込まれる。
規則的な鼓動の響く胸に頬を付け、目を閉じると、真琴は安堵のため息を吐いた。



――…ここが、私の居場所……



今の真琴にとって、一番安らげる場所は、古庄のこの腕の中――。

自分の育った懐かしい場所よりも、ここが大事な場所になっていたということを、今日真琴は改めて知った。


こうやって抱きしめられて、満たされ安らげているはずなのに、心がキリキリと痛んでくる。


それは、寄せては返す波のように、尽きることのない古庄への甘く切ない慕情のせい。

そして、古庄が自分の家族に対して味わわねばならなかった、苦い思いに思いを馳せて…。



「…今日の、正志ちゃんやお父さんのこと…。ごめんなさい。あんな態度…、気分が悪かったでしょう?」


真琴は古庄の胸から囁いた。





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