恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「…うーん」
古庄は少し考え込んだ。
ラグビーボールを持ち、パスを出す時の動作を手元で繰り返す。
「よし!右利きだよな?まず左に出すパスからだ。左手は下の方に添えるだけ。回転かけるのは右手だけど、回転させようとするんじゃなくて、投げ方で自然と回転させるんだ」
「……え?」
正志は、いっそう訳が解らないといった顔をする。
「いいかい?右の肘を投げたい方とは逆方向に一旦引く。それから投げたい方へ右腕を伸ばす。その時ボールを投げて」
古庄は説明しながら、その通りにボールを投げてみると、きれいな回転がかかったパスが正志のところに飛んできた。
正志は言われた通りに、やってみる。
何度も何度も、真面目にボールを投げ続けた。
それは、「もうやめたい」なんて思っている顔ではなかった。
「投げるターゲットに、ちゃんと右手をフォローして。それと、投げる瞬間に左手の親指でボールをピッと弾いてごらん」
そのアドバイスをもらって、再び正志がボールを投げると…、
「…おっ!!」
パスを受けた古庄が驚くほど、きれいな回転がかかっていた。
「今、できたよね!?」
正志の顔が嬉しそうに輝いた。
古庄も頷きながら、嬉しくて笑顔がこぼれた。
「あとは、先輩の言うように、練習するだけだよ。そのうち、逆方向も同じように投げられるようになるから」
「うん」
それからまた、何度も何度も二人はボールを投げ続けた。
正志の気の済むまで、古庄は自分からやめようとは言わなかった。
しばらく無言で自分の動作に集中した後、正志が不意に口を開く。
「…お姉ちゃんのこと。真面目で頭が良くて、優しくて美人だって、僕も思ってるんだからね」
「…うん、わかってるよ」
話がスクリューパスから逸れてしまっても、正志の手元はもう狂わなかった。
「お姉ちゃんのファン第1号は、僕なんだからね」