恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「でも、すぐに俺なんかよりも上手になるよ。何てったって、都留山のラグビー部だから」
「上手になる前に、また『やめる』って言わなきゃいいんですけどね」
「大丈夫。君の弟だよ?そう簡単に諦めたりしないよ。ちゃんと努力が出来る強い子だ」
そう古庄から元気づけられて、真琴は古庄にきちんと向き直ってその目を捉えた。
「正志ちゃんのこと、ありがとうございます。昨日はあんなに拗ねてたのに、ビックリしました」
頑なだった正志の心を、古庄はどうやって絆(ほだ)したのだろう。先ほどの正志は、まるで魔法にでもかかったみたいだった。
「礼には及ばない。あんなに可愛い弟ができて、嬉しいよ。俺の方こそ、正志くんにラグビーを勧めてくれて感謝してる」
正志がラグビーをやっていなかったら、こんなに打ち解けられるのは、ずいぶん時間がかかったに違いない。
「…それは、昨日正志ちゃんが指摘した通り、あなたがラグビーをやってたから勧めただけなんです」
真琴は恥ずかしそうに顔を赤らめて、手にあったラグビーボールを抱きしめた。
正志が高校に入学した当時、真琴と古庄は、まだ夫婦でもない恋人同士でもないただの同僚だった。
そんな時でも、真琴がずっと古庄を心に留めて想い続けていた証でもある。
その事実と真琴の愛らしい仕草に、古庄の胸はキュンと鳴いて震え、思わず真琴を抱き寄せてしまう。
けれども、人目もある朝の公園だということに気が付いて、それ以上は思い止まった。
古庄はそのまま真琴の肩を抱いて、休日の朝の澄んだ空気を吸いながら、二人でゆっくりと家へと戻った。