恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②




そこに取り残されたのは、古庄と父親…。

この気まずいシチュエーションは、もう何度目だろう…。
車の横にたたずんで、手持ち無沙汰の時が流れる。

父親の方から話しかけてくれるはずはないので、何か話題はないかと、古庄は思考をフル回転させた。




「……和彦くん…」




古庄は、自分の耳を疑った。

けれども、今この場で、自分をこんな風に呼ぶのは真琴の父親しかいない。

ゆっくりと父親に視線を定めると、父親もしっかりと見つめ返してくれていた。



「……はい」


突然襲ってきた緊張のせいで、古庄の声はうわずっている。



「…真琴を、よろしく頼みます」



父親は、最初に古庄がしたように、深々と頭を下げてそう言った。
古庄も釣られて、頭を下げる。


「…あっ、あの。……はい!」


もう少し気の利いた答え方をしたかったが、焦ってしまってただの返事しかできなかった。


頭を下げ合う二人の男の間には、それ以上の言葉もなくギクシャクとした空気が漂った。



「和彦さん、ちょっと手伝ってください。これ、ジャガイモ重くって…」


真琴の声に、古庄が頭を上げる。
同時に父親も声のした方に、振り返った。


「ちょっと、欲張りすぎよー。そんなに食べられるの?」


「食べられるわよ。週末は、和彦さんも一緒なんだから」


母親とそんな会話をしている真琴の側に、古庄は駆け寄り、その手にある重そうなレジ袋を、軽々と持ち上げる。

そして、ジャガイモをトランクに積み込むと、二人は車に乗り込んだ。


「それじゃ、ね」


真琴が車の窓を開けて短く別れを告げると、古庄も一礼して車を走らせ始める。


しかし、数十メートルほど走ったところで、突然古庄は車を止めた。


「…忘れ物ですか?」


そう問いかける真琴には応えず、ギアを切り替えサイドブレーキを引くと、ドアを開けて走り出る。
急いで賀川家の門まで戻ると、真琴の父親と母親は玄関を入るところだった。




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