恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
会ってほしい人
「…よかった!それじゃ、土曜日の昼1時過ぎくらいに君のアパートに迎えに行くから」
真琴の鶴の一声に、一瞬で古庄の声も弾んだ。
声に現れている以上に、気持ちはもっと弾んでいた。
「…あの!もっと早く12時ごろに迎えに来てもらっていいですか?」
真琴からの嬉しい申し出に、古庄の心はもっと踊りあがる。
「そうだな。せっかくだから旅館に行く前、どこかにデートに行こうか」
「…いえ、そうじゃなくて…!」
楽しい想像を膨らませている古庄を、即座に真琴は遮った。
「……会ってもらいたい人がいるんです。連絡して、場所と時間を決めておきますから」
真琴の口調からは嬉しさは感じられず、緊張感が漂っていた。
その雰囲気に圧されて古庄も神妙になり、浮き立っていた気分も消沈する。
「…うん、分かった…」
そう短く答えると、誰と会うのかも訊けないまま、携帯電話の通話は終わっていた。
会う相手のことを詳しく聞かなかったことは、少し古庄の中で尾を引いた。
――もしかして、真琴の両親……?
思い当たるとしたら、それくらいだ。
そう思うと却って、おのずと緊張してくる。
両親に報告する前に、すでに結婚してしまっていることを、懸念されて咎められるかもしれない。
そのことについて、どう言って申し開きをするべきか…。
放生会で賑わう夜の街を巡回している時も、古庄は漠然と考えを巡らせていた。
しかし、そんな物思いも、真琴が古庄の車に乗り込んでくるまでのことだった。
淡いベージュのワンピースに身を包んだ真琴に、古庄の目が釘付けになる。
普段から外見で判断されることが多い古庄は、人の見た目にはあまりこだわらないのだが、学校では決して見ることのできない真琴のこの姿に、すっかり心を奪われてしまった。