恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
周りには人どころか、人家さえ見えない…。
行く先には小高い山がそびえるばかりで、この先に本当に古庄の実家なんてあるのだろうか…。
違った意味で不安になってきた真琴は、地図を確認するために焦ってスマホを取り出す。
すると、駅では表示されていた地図さえ表示されず、「通信環境の良いところで、再度お試しください」と出てくるばかりだ。
いろいろ試して、確かめてみると、電波のアンテナが「圏外」と出てしまっている。
――……ウソ……!
真琴は愕然として、力が抜け落ちてしまう。
そして、それを追いかけるように、胸の鼓動が不穏に乱れ始める。
これでは、地図で現在地を確認することも、先ほど駅の広告にあったタクシーを呼ぶこともできない。
――……このまま、先に行く?それとも、駅に戻る…?
とてつもない不安が一気に押し寄せてきて、涙が真琴の目に滲んできた。
パソコンにスマホ、文明の利器に頼りすぎていると、こんな時にはなす術もない。
「……和彦さん……」
と、心細さのあまり、古庄の名前を呼んでみたけれども、当然古庄が来てくれるはずもない。
――和彦さんに内緒にしてたバチが当たっちゃった……
そう思って目を絞ると、ぽたぽたと涙が零れ落ちた。
今歩いているこの道が正しいのか確認できない以上、このまま前に進むわけにはいかない。
そうすると選択肢は一つ、駅に戻るしかない。今来た道を、再び1時間歩いて。
情けなさに、涙がもっと溢れてくる。
真琴はもう古庄の実家などはどうでもよくなって、帰りたくなってきた。帰って、一刻でも早く古庄に会いたかった。