恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
その若者が畑の中ほどまで戻ってきた時に、
「お仕事中、すみません」
と、もう一度声をかけたら、今度は気づいてくれたらしく、バインダのエンジンを止めてこちらへ歩いてきてくれた。
「この辺に、古庄さんという方のお家は…ありま……せんか…?」
そう尋ねながら真琴は、言葉さえままならなくなった。
マスクを外しながらこちらへ来るその若者に目がくぎ付けになり、息が止まって、身動きもとれなくなる。
農作業をするつなぎ姿には似つかわしくない、この世のものとは思えないほど完璧で端正な容姿――。
古庄も同じように形容できるかもしれないけれども、この若者は古庄よりも神々しくて、人間ではないみたいだった。
見かけることのないよそ者の真琴を、若者はじっと訝しそうに見つめる。
その視線を受けて、真琴は体中の血液が沸騰しそうになった。
「この辺の古庄は、私の家だけだが……あんたは?」
「…っあ、あのっ!…わ、わ、私はっ……」
緊張のあまり、真琴は例のごとくどもってしまう。
「…さては、また和彦の追っかけか?ここ数年は見かけなかったけど…」
と、ますます不審な目でじろじろと眺め回されて身がすくみ、真琴は何も言葉を返せずに口をパクパクさせた。
「どっちにしろ、和彦はここにはいないよ。無駄足だったな」
そう言い残すと、若者はくるりと背を向けて、再び農作業に戻ろうとした。