恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
でも、この若者は「古庄」という家の人間で、古庄のことも知っているらしい。もっと詳しく話を聞く必要がある。
そう思った真琴は、思い切ってその背中に言葉を投げかけた。
「あの…!私は、和彦さんの妻です!古庄真琴って言います!!」
若者はそれを聞いて、弾かれたように立ち止まった。そして、ますます怪しそうな表情をして振り返る。
「……また、そんな願望を……。くだらない妄想に付き合ってる暇はないんだよ」
そんな冷たい返答に真琴はひるみそうになったが、勇気を振り絞った。
「…ほ、本当です!!…そ、そうだ。これ、保険証があります!」
と、財布の中から、自分の保険証を急いで取り出して、水戸黄門の印籠のように掲げて見せた。
そこには「古庄真琴」と、真琴の本名が記されてある。
これは同僚たちには、決して見られてはならない物だった。
その若者はもう一度真琴の側までやって来ると、その保険証と真琴の顔を代わる代わる凝視した。
「…本当に?!和彦はあんたと結婚したのか…?」
「はい。9月に入籍しました」
若者は信じられないものを見るように真琴を改めて眺め回して、「チェッ…」と小さく舌打ちした。
「おめでとう」という言葉ではなく、この舌打ち。グサリと真琴の胸に突き刺さったが、それでも、ここでめげてはいられない。
真琴は気を取り直して、
「……それで…あの…あなたは…?」
と、尋ねてみる。