天使が舞い降りる。
「遠いところ」と、言葉を濁したサイの母親の気持ちがよくわかる。
まだ5歳の妹に、大好きなお兄ちゃんの死を打ち明けることはあまりにも残酷すぎた。
私が「サイの友達」と言っただけで、奏ちゃんはとても嬉しそうに笑っていた。それを思い出せばよくわかる。この子が、どれだけサイのことを好きだったか……
サイも、それをわかっていたから、ここに来ようと決めたのかもしれない。自分を失った大切な妹が、どうしているのかって…
結局は、真実なんて伝えらていなくてこうしているわけだけど……
「奏……サイ兄ちゃんに会いたいよ……」
だけど、きっとそれも……時間の問題。
遠いところに今は出かけているといっても、帰ってこない日が続けば悲しむに決まっている。幼い子どもにとはいえ、そんなウソがずっと続くはずなんてなかった。
「奏ちゃん……」
だけど……
だからといって、真実を話す勇気は私にだってない。
『奏ちゃんのお兄ちゃんは、もう死んじゃったんだよ』
口が裂けても……絶対に言えない。
「それとね、サイ兄ちゃんがいなくなってから……お母さんが変なの」
「変って、なにが?」
「お母さん、夜の仕事から帰ってくるといつも泣いてるの…」
「……」
「お母さんどうしたのって聞いても、なにも教えてくれなくて……お兄ちゃんの名前、ずっとしゃべってるんだよ」