天使が舞い降りる。
「涙…!」
突然の衝撃に倒れ込みそうになったが、なんとかすぐ横にあった傘置きに手を付きそれは免れた。
「大丈夫か!?」
サイが慌てて乱れた髪で隠れる私の顔を覗き込んでくるけど……返事をするわけにはいかない。
わかっていたことだけど…
やはり母にも、サイの姿は見えていないから。
見えていたら、サイの美貌にまず驚くとこだし、何より私が家に男の子を連れてきたことに唖然とするはずだ。
それにこの人は…
いくらサイが高校生とはいえ、人前で娘をぶったりはしない。
気にするのは、あくまでも「世間体」だ。
「学校から昼に連絡が来たわよ!!今まで何してたの!?」
頭上から母の、ヒステリックな叫び声が聞こえる。
「今日の授業を休んだことで次のテストに影響したらどうするのよ!!そんなんじゃ、いい大学には行けなくなるのよ!?聞いてるの、涙!!」
「ごめんなさい…」
「無断で帰ってきた理由を言いなさい!」
「少し、体調が悪くって…」
「とてもそうには見えないけどねえ!?」
こういうときは、素直に謝っておくのが一番。いちいち反抗していたら、くどくど説教が長引くだけだ。
「今日はずっとお母さんが許すまで部屋で勉強していなさい!!わかった!?」
「はい…」
殴られた頬を押さえ、力なく頷く。
不機嫌に家の中へと消えていく母を見て、私はサイの手を引き靴を脱いだ。
そして足早に自分の部屋へと向かう。