天使が舞い降りる。
すぐに蛇口をひねり、水でタオルを冷やしていく。
幽霊なのに、物に触れるんだ…
だけど、同時に気づいた。洗面台の鏡に、サイの姿が映っていないこと…。
『行こう、涙』
扉のほうに突っ立ていた私の腕を、サイが引く。
そして今に至った。
「涙のお母さんって、いつもああやって涙を殴るの?」
静かな空間の中で、サイが聞いてくる。
「あの人は、昔からああだから」
母は、いつもそうだった。
とにかく周りの目を気にし、世間体ばかりを第一優先に考えようする。
だから無断で授業をさぼり、「普通」の枠から外れた自分を怒ったのだ。
「テストで点数が良くなかったり、成績が少しでも落ちたてたりすると、いつも基本叩かれる。だから…気にしないで?」
私の言葉に…サイの目が、信じられないといったように大きく見開かれる。
「『いつも』って…」
母だって、好きで私を叩いているわけじゃない。
根本的なそもそもの原因は…自分にある。それはわかっているのだけど…
「涙の母親は…涙をどうしたいわけ?」