天使が舞い降りる。
「とりあえず今は…いい大学に行かせようとしてるんだと思う。あと昨日の夜、来月から予備校にも行け、とか言ってた。」
「何それ」
眉をしかめるサイ。私の母に嫌悪感を抱いているのは……確かみたい。
「それが、涙の希望ならわかるけど」
一度外されたサイの視線が…再び私を見上げる。
「けどさ…涙自身は、それでいいの?」
「いいのって…何が?」
聞き返す私にサイは続けた。
「涙には、何か夢とか、やりたいことはない?」
夢?
私は顔を上げる。同時に視界に入ったのは、机の上にある赤いノートパソコン。
夢はないけど……好きなことはある。
その好きなことを夢にできたら、どんなにいいだろうかと思っていた。
でも…
「あるけど……叶うはずなんてないから」
「だれがそんなこと言ったの」
「言われなくてもわかるよ」
小説家なんて……そんなの、文才に恵まれた、ごく一部の人だけなんだから。
それを目指して暮らしていこうなんて、世の中そんなに甘くない。甘くないんだよ…
顔を伏せて、下唇をギュッと噛みしめる。
「あのさ、涙」
ポタリと、タオルから水が滴り落ちた。涙みたいだった。