天使が舞い降りる。
気持ちいい…
すっかり夕日の落ちた窓の外。
流れ込んでくる夏風が頬にあたり、同時に背中まで伸びた黒髪を静かに揺らす。
風に吹かれていると、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、母に対する怒りも消えてきた。
それでも、厄介な事態に陥ろうとしていることには変わりない。
「予備校…か」
ため息をつかずにはいられない。
ただでさえ、学校の授業だけで勉強などウンザリだと思っているのに…。
私に華やかな未来なんて必要ない。
給料なんて高くなくてもいいから…好きなことをしたい。
「そんなことができるのは、ごく一部の人だけなんだろうけどさ…」
小さく漏れた私のつぶやきは、夜の闇へと消える。
テニスの好きな人がみんな、プロになれるわけじゃない。
楽器を吹いている人みんなが、音大を目指すほどの才能に恵まれているわけじゃない。
好きなことを仕事にして生活していける人なんて…本当に稀なんだろうな。
大半の人が、やりたいことを諦めて、一般的なごく普通の道を歩んでいく。
私も、きっと……そのうちのひとり。
窓から離れ、すぐ隣にある机上のノートパソコンを起動させる。
イスに腰かけると、数秒もしないうちに画面が明るくなった。