ルージュのキスは恋の始まり
「首になるのならもう上司でも何でもないわ」

「首にはしない。お前は今年の秋のCM発表が終わるまで宣伝部に異動だ」

「横暴よ。こんな会社辞めます」

 私が会議室を出て行こうとすると、社長に腕を掴まれた。

 彼が私の胸の社員証をちらりと見る。

「逃げるのか、橘美優?今年のだってお前が開発したんだろ?みんなが手にとってどういう反応をするか知りたくないのか」

「・・・・」

「研究者なら当然知りたいはずだ」

「あなたに何がわかるのよ?」

「お前が辞めない事かな。片岡、宣伝部の部長にこいつの異動の件伝えておけ」

「わかりました、ボス」

「秋の新作のキャッチコピーは・・そうだな、『キスしたくなる唇』。メインのモデルは男性を起用しろ」

 社長が私を見てニヤリと笑う。
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