ルージュのキスは恋の始まり
「ごめん」 

 百合ちゃんの優しさにホッとして少し気が緩んだのか目頭が熱くなる。

 次の瞬間には涙が頬を伝ってた。

「大丈夫。大丈夫」

 百合ちゃんがそう言いながら俺に覆い被さるようにして俺の肩をそっと抱く。

 彼女の体は小さいのに、その温かさは俺の体全てを包み込んだ。

「男の子だって泣いていいんですよ。大河さんの涙見れるなんて役得です。きっとファンに恨まれますね」

 百合ちゃんが茶目っ気たっぷりに微笑む。

 彼女は俺達の事、どこまで知ってるのだろう。

 ゴミ箱に入れたクロスのネックレスを拾ってくれたのだから、控え室での美優との会話も聞いていたはずだ。

「百合ちゃん、俺の涙は高くつくよ」

 声音を変えて小動物を捕食する狼のような目で彼女を見上げる。
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