ルージュのキスは恋の始まり
 百合ちゃんに涙を見られたのが癪でちょっとからかうつもりだった。

 でも、彼女の反応は普通の女と違った。

「大河さん、今月私、3,271円しかないんです~。給料日までまだ一週間あるのに払えませんよ」

「・・・・。本棚の本、全部売れば?」

 百合ちゃんのとんちんかんな言葉に唖然とする。

 彼女といると、自分のペースを崩される。

 だが、百合ちゃんは計算でやってない。

 ドがつくほどの天然だ。

 その彼女には俺の演技は通用しない。

「大河さんのいけず~。私の宝物ですよ!」 

「ほら、事務所に戻るよ。俺と一緒に社長に怒られてくれたら、百合ちゃんの好きなお寿司奢ったげる」

「ホントですかあ?」

 百合ちゃんの顔がパッと花が開いたように笑顔になる。
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