ルージュのキスは恋の始まり
 俺はここで死ぬんだ。

 そう思った。

 だが、お袋は手の力を緩めた。

「玲王、ごめんね」

 お袋はそう言って謝ると、親父の後を追ってベランダから飛び降りた。

 手を伸ばしたが、お袋には届かなかった。

 子供であるが故に何も出来なかった自分。

 意識が朦朧としている中、じじいが慌てて駆け込んで来るのがわかった。

 結局、お袋は俺を殺せなかった。

 目覚めた時、俺は病院のベッドの上にいた。

 首の痣はそれから十何年も経つのに消えない。

 鏡で痣を見るたび、あの時の記憶が蘇る。

 まるで俺に忘れるなって言っているかのようだ。

 あの時一緒に死んでいれば・・・・いや、考えるのは止めよう。
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