ルージュのキスは恋の始まり
「さあ、乗るんだ」

 佐藤が私の背中を押すが、私は怖くて上手く身体を動かすことが出来ない。

「ぐぜぐずするな!」

 私がもたもたしていると、佐藤がキレてカミソリを持っている方の手を振り上げた。

「・・・・!」

 もうダメだって思った。

 私の顔に向けて振り上げられる佐藤の手を、私の目は呆然と捕らえる。

 いや、捕らえるというよりは目に飛び込んでくる。

 目を閉じて恐怖から逃げる事も出来なかった。

 何もかも諦めていると、歩さんの怒号が聞こえた。

「か弱い女に何すんのよ!」

 声と共に、歩さんが佐藤に向かって回し蹴りをする。

 それが佐藤の頬に見事当たり、佐藤は地面に倒れた。
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