ルージュのキスは恋の始まり
 私が戸惑っていると、ガクさんが耳打ちしてきた。

「本社でな、あんたを抱き上げてる玲王と話をした」

「・・・・」

 ガクさんの言葉に絶句する。

 恐らく、私が過呼吸で倒れた日だろう。

 そんなところを見られるなんてタイミング悪すぎ。

「あの・・それは・・・・」

 言葉につまる。

 玲王とは最近会社でしか顔を見かけない。

 声を直接聞いたのもあの夜が最後だ。

「まあ、若いからいろいろあるだろう。あれは、子供の頃に両親を亡くしてな、人一倍苦労してる。人の心の痛みがわかる奴だ」

「はい。知っています」

「口は悪いが誰よりも愛情深い。あいつを見放さないでやってくれ」

「・・・・」

 私が無言でいると、ガクさんは何かを見つけたのかパチンと額に手を当てた。
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