ルージュのキスは恋の始まり
「言われなくてもわかってる!」

 髪をかきむしりながら、ここが客先という事も忘れ声を張り上げる。

 やれるならとっくにやってる。

 でも・・・・今日こそは美優と話をしよう。

 歩が定時過ぎに美優を家まで送り届けたようだし、今から帰れば夕食も一緒に食べれる。

 もう俺の方が限界だ。

「歩、今日の会食はキャンセルだ。先方には風邪とでも伝えておけ」

 最初からこうしておけば良かったんだ。

 歩を置いてすたすたとロビーを歩く。

「え?ちょっと、待ちなさいよー!」

 歩の声を無視して玄関前に止まっていたタクシーに乗り込む。

 この時は、美優はまだ家で俺の帰りを待ってると思ってた。

 だが、俺は遅すぎたらしい。
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