ルージュのキスは恋の始まり
 明日田辺部長が読むように、故意に社内郵便に出す。

 ここにいてもやることなんてない。

 開発者の立場から次の商品カタログのチェックもしたけど、きっと誰も目を通さないだろう。

 私の居場所なんてないのだ。

 ランチの時間が終わると、めったに鳴らない私のデスクの内線が鳴った。

「はい、橘です」

『今、受付の方に西園寺様が見えてますが』

「西園寺?」

 全く心当たりのない名前だ。

『女性の方で、橘さんとお話があると仰ってて・・・・』

 人違いじゃないだろうか?

 でも、行かなければ本人も納得しないだろう。

「わかりました。今そちらに伺います」

 気は進まないが電話を切ってすぐに受付に向かう。
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