ルージュのキスは恋の始まり
 だが、受付の子に聞かなくても誰が西園寺さんなのかすぐにわかった。

 小豆色の落ち着いた着物を着ていて、あの人の周りだけ別世界のような感じだ。

 きっとどこかのお嬢さんなのだろう。

 やっぱり間違いだ。

「お待たせして申し訳ありません。私が橘です」

 和服姿の女性に声をかける。

 顔を見れば間違いに気づいてすぐに解放されると思った。

 でも、間違いではなかった。

 西園寺さんは敵意むき出しの顔で私を見た。

「これで玲王さんのとこから出て行って!」 

 そう言って彼女は、私の胸に分厚い封筒を叩きつける。

 私は反射的にそれを受け取ったが、訳がわからなかった。

「え?」 

 玲王さんって言った?

 私が状況をつかめないでいると、西園寺さんは私を睨み付けた。

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