ルージュのキスは恋の始まり
 言ってくれれば良かったのに。

 知ってたら・・・・あんなお願いしなかった。

 馬鹿だな・・私。

「・・・ごめんなさい」

 うつ向いたまま謝って、床に落ちたお札を拾う。

 拾い集めて西園寺さんに返そうとした時には、彼女の姿はなくなっていた。

「・・・・」

 呆然としたまま私はしばらく立ち尽くしていた。

 婚約者・・・・愛人・・・・。

 西園寺さんの言葉が頭から離れない。

 そして、彼女を纏っていた白檀の香りが私を苦しめる。

 何かが音を立てて壊れていくような気がした。

 それからどうやって自席に戻ったのかわからない。

 気づいた時には定時を過ぎていて、歩さんに肩を叩かれた。

「美優ちゃん、帰りましょ」

 もう返事すら出来ず、歩さんの後をついていつものように車に乗る。
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