ルージュのキスは恋の始まり
 頭の中は真っ白だ。

 流されてそのまま翻弄される。

 気づけば私の息は乱れていて、いつの間にか上半身裸の井上君に抱き締められていた。

 可愛い羊だったはずなのに、これじゃあ狼じゃない。

 詐欺だ。

 今までのなよっとした井上君はどこに行ったのよ!

 細マッチョな感じで鍛えられた身体してて、とてもじゃないけど私の力じゃ逃げられそうにない。

「ど・・どうしてキスなんか?」

「決まってるだろ。好きな女にしかキスしないよ」

「・・・好きな女?」

「ひ弱な振りしとけば煩い女は寄ってこないし、橘先輩も男性は苦手だったみたいだし、ここで平穏無事に過ごすには楽だった。亜紀も俺に警戒せず接してくれたしね。けど、欲しい女はやっぱり本気で取りにいかないとね」

 井上君の目がキラリと光る。
< 368 / 391 >

この作品をシェア

pagetop