ルージュのキスは恋の始まり
 私が悩んでる間に、井上君は着替え終わっていた。

 助かった。

 ずっとあの姿でいられたら心臓に悪過ぎる。

「今、ホッとしたでしょう?でも、そのうち必ず亜紀を頂くからね」

 井上君が私に手を差し出す。

 私が素直にその手を取ると、また彼に抱き締められた。

 そして、井上君は私の髪をかき分けると、私の首筋に口を近づける。

 ただのキスではなかった。
 ちくっという痛みがしたかと思ったら、井上君がそれを見て満足そうに笑う。

「これ俺のって印だから。消えないようにこれから毎日つけるね。じゃあ、亜紀の家まで送ってくよ」

 それから、黒塗りの車が現れて、井上君の目の前で止まる。

 運転手さんが降りてきてわざわざ車のドアを開けると、井上君は私の背中を押した。
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