ルージュのキスは恋の始まり
 大丈夫、大丈夫。

 自分に言い聞かせる。

 ここで1歩踏み出さなければ、ずっと大河のお荷物のままだ。

 覚悟を決めて駅に小走りで向かい、何本も電車を見送りながら、5本目に来た電車にようやく乗る。

 本社の最寄り駅までは40分。

 男性の隣に座るのが嫌で、空いているのに女性同士が隣り合うよう席を選んだ。

 電車に乗るだけで緊張している。

 身体中がアンテナになって、あの男を警戒している。

 息苦しさを感じた。

 やっとの思いで本社にたどり着くと、呼吸が段々早くなる。

 こんなに空気を吸ってるのに全然楽にならない。

 むしろ苦しくなるばかりだ。

 どうして?

 そのうち手が痺れてきて、目眩が私を襲う。

 そのままくずおれそうになった時、私の視界にあの男が映った。
< 52 / 391 >

この作品をシェア

pagetop