ルージュのキスは恋の始まり
「いいか、ゆっくり息を吐け。もっとだ」

 言われるがまま息を吐く。

「今度は吸え」

 龍神社長は何度も同じ言葉を繰り返す。

 でも、彼の言う通りゆっくり吸って、吐いてを繰り返すと呼吸が楽になってきた。

 正確には呼吸の仕方を思い出した。

 私はパニックになって、呼吸の仕方もわからなくなっていた。

 それをこの悪魔に教えられるなんて・・・・。

 それに、龍神社長の腕の中で安心するなんてどうかしてる。

「初日から重役出勤とはいい度胸だな、橘美優」

 俺様な悪魔がフッと微笑する。

 そんな彼の声に優しさが感じられたのは気のせいだろうか。

 張り詰めた緊張が解けてホッとしたのか、私はそのまま意識を手放した。
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