ルージュのキスは恋の始まり
 他の社員もこの部長の言いなり。

 みんなが私を見る視線は冷たい。

 私はここでは厄介者だ。

 息苦しさを感じてそっとオフィスを出る。

 私がいなくなってもここでは困る人なんていない。

「亜紀ちゃんに会いたいな」

 思わず口から言葉が出る。

 あのラボに帰りたい。

 開発はうまくいっているだろうか。

 諸悪の根源はあの俺様悪魔だ。

 私の意思を無視して勝手に異動なんか決めて。

 屋上に上がると、ベンチに腰かけて空をボーッと見上げる。

 空は雲ひとつなく真っ青なのに、私の心の中はすっきりしない。

「やっぱり会社・・・辞めようかな」

「臆病者」

「・・・・」

 どうやら先客がいたようだ。
< 93 / 391 >

この作品をシェア

pagetop