君だけのパティスリー
君だけのパティスリー
「はい、なーちゃん!今日のおやつは、型抜きクッキーだよ」


すっと顔の横に差し出された袋に、木並 ななは手にしていた文庫本を下ろして顔を上げる。


「相変わらず、趣味が女の子」


ななと、その隣に腰を下ろす立河 ふゆ樹以外は誰もいない、のどかなバスの停留所。
大学生の二人は、普段は自転車を使って登校しているのだが、チラチラと雪が舞い始めたこの頃では、揃ってバスでの通学に切り替えていた。


「今日はね、型抜きにしてみたんだ!やっぱり、型抜きは見た目が可愛くていいよね」


差し出された袋を覗き込むと、ハートに花に星と何とも可愛らしい形のクッキーがぎっしりと詰まっている。
ふんわりと鼻腔をくすぐるシナモンの香りに誘われ、ななは色よく焼けたクッキーを一つ摘み出す。


「最近のなーちゃんは、大人な味が好みだっておばさんに聞いたから、今回はそんな感じを目指してみたんだ!」


家が近所で親同士も仲がよく、物心着く前からずっと一緒にいた二人は、大学生になった今でも同じ学校に通う幼馴染み。

お母さんはいつも余計なことを……などと心の中で不満を呟きながら、ななは口元まで覆うようにして巻いていたマフラーを少し下げて、指で摘んだクッキーを一口齧る。
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