いつだってそこには君がいた。



「日高、大丈夫か?ここ掴まれる?」


「うん……っ、ありがとう」



入り口付近の鉄の棒を差しながら高橋くんが私の手を引く。
下駄で揺れる電車に耐えられそうになかったからとてもありがたく感じた。優しさが、とても嬉しい。


そして人混みで声が通らないから私の耳に口もとを近づけるように言われて、とても心臓の動きが活発になった。


電話の時といい、私は高橋くんの声に弱いのかもしれない。


沙月ちゃんと結城くんは少し離れたところにいるみたい。
私よすぐそばに立つのは高橋くん。
見上げると「ん?」って顔を傾げてきて、顔を横に振った。


距離が……近い、な。


私の心臓の音、うるさくないかな?
聞こえたりしなければいいけど。


肩と肩が触れる。
ぎゅうきゅう詰めだから仕方ないことだけど、高橋くんイヤに思ってないかな。
私はドキドキしてたまらないんだけど。



「きゃ……」


「大丈夫?」


「うん、ちょっとバランス崩しただけだから」



電車が大きく揺れて転ぶかと思ったけど間一髪腕に力が入って防ぐことができた。
やっぱり下駄じゃバランスが取りづらい。
浴衣を着ているから足もそんなに開かないし。



「安心して日高」



うつむけていた目線を上げて、高橋くんを見た。



「また転びそうになったら俺が助けるよ」



白い歯を見せて笑う高橋くんに胸が可愛く音を立ててしぼむ。
あまりに彼がかっこよくて、胃の下あたりに軽い痛みを感じた。



「あ、ありがとう……」



こんなに好きになって、どうしよう。
どうしようもなく、好きで好きで、たまらない。
とどまることなく、どんどん好きになってしまう。


高橋くんが好きにさせてるんだ。

私の心を喜ばせる天才だと本気で思う。



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