いつだってそこには君がいた。
後ろで扉が閉まる音がした。
息を吐くと、白い煙が一瞬現れて消えた。
不思議なくらい焦りがない。
この約一年ずっと勉強を頑張ってきたからかな。
……勉強だけじゃない。
この一年は、初めてのことだらけだった。
空を見ていた瞳。瞼を閉じて、ここへ引っ越して来てなら今日までのことを思い浮かべる。
色んな声が聞こえる。
不安な気持ちを抱えて俯いていた私。
最初に声をかけてくれたのは、ある人の明るい声。
初めてできた女の子の友だちのや、すこし意地悪だけど、本当は優しい男の子の友だち。
そしてクラスメイトたちの、明るい声。
私の人生の中でこの一年はいつまでも特別なままだと思う。
「日高」
瞼の裏で色んな出来事を思い浮かべていた私に届いたその声に目を開ける。
すっと息を吸うと目の前には高橋くんがいた。
いつもの学ランを羽織い、マフラーを首に巻いて、両手に手袋をした彼。
見間違えかと思ったけれど、電柱に体重を預けるように立って、そこには確かに高橋くんがいる。
「……高橋くん」
呼ぶと白い歯を見せてニッと笑ってくれた。
沙月ちゃんと結城くん含めて駅前で待ち合わせをしていたのだけど、どうして?
周りを見渡しても、他のふたりはいないみたいけど。
「迎えに来ちゃった」
あまりに無邪気すぎるその言葉が、真っ直ぐ胸のど真ん中に突き抜けてくる。
……聞き間違いかと思った。
だけどいつもの調子で笑っている高橋くんは本気で言っているのだとわかる。
そしてなんの下心もないことは、百も承知だ。
それでも私は嬉しかった。
「ふふっ、ありがとう」
「あ〜〜、めっちゃ緊張する〜〜!日高の顔見れば落ち着くかと思ったんだけどなあ」
「落ち着かない?」
「癒されるけど、落ち着きはしないかなあ」