いつだってそこには君がいた。
上の空で教室の後方部の扉から中に入ると視線の先に高橋くんがクラスメイトの女子と話しているのが見えた。
「ねぇ愛希の第二ボタン明日ちょうだいよ」
聞こえてきた話題に思わず身体が硬直する。
数メートル先で話しているふたりから目が離せない。
「第二ボタン?お前こんなんが欲しいの?」
「心臓に一番近いボタンだから、女子はみんな愛希の欲しがってるよー」
「ふぅーん……」
口を尖らせながら高橋くんが返事をした。
ドクドク心臓がうるさい。口で息を吸って、そのまま吐き出した。そうして正気を保ったまま、そのふたりの横を通って席についた。
高橋くんがその後その子になんと言ったのからわからなかった。
明日、第二ボタンはきっともう貰えない。
あの子じゃなくても、きっと私なんかには巡ってこない。
もう先客がいるんだもん。
優しい高橋くんだからきっと断らないよね。
「ゆりりん」
「結城くん」
顔を上げると結城くんが私のとなりの席に腰かけた。
「まーた暗い顔してっぞ」
「……そう、かな?」
「ああ、超絶不細工」
意地悪な結城くんを少しだけ恨めしく思う。
暗い顔しているのに、そんな酷い言葉。
本気じゃないのはわかるけれど、もっと他にあるでしょうに。
「明日卒業なんだし、笑おうぜ」
「うん……っ」
飴と鞭が極端すぎるよ、結城くんは。
頷くと切れ長の彼の目の端が下がった。