いつだってそこには君がいた。


高校生への憧れと、目先の恋心への不安と、受験の合否の危惧。


温かい場所を旅立たなきゃいけないこの気持ちを言葉でどう表したらいいのかわからない。


開いた窓から風が朗らかに舞い込む。
カーテンが優しくふんわりと揺れ、ほんのり春の匂いがした。



『ーー卒業生、入場』



静粛に卒業式は執り行なわれた。
時間が進むに連れ、涙で鼻をすする音が体育館に響いて行った。


私もここに通いだしてから今までの楽しかった日々を思い出していると、溢れる涙を我慢することができなくて、ポケットに忍ばせていたハンカチを片手に祝辞や答辞などを聞いた。


式が終わって教室に戻ると目を赤くしたクラスメイトたちと話し込み、担任がやって来ると席について最後のホームルームが始まった。



「これから君たちの人生山あり谷ありだろうが、きっと大丈夫。なにかあれば楽しかった時の記憶をたどって、乗り換えっていってほしい。思い出は人を強くするから」



先生の言葉を最後に、いつものように委員長が号令をかけてホームルームは終わりを告げた。


号泣する女の子、ガヤガヤ盛り上がる男子。クラスメイト全員ぶんの手紙などを準備していたのか、渡してまわる子もいた。
私も貰ったのだけど、こちらはなにも準備しておらず申し訳ない主旨を伝えると「全然大丈夫」だと言われた。


申し訳なくて顔を歪ませていると、視界の端で高橋くんが教室を出て行く姿を捉えた。


胸が跳ね上がり、酸素が私の中に入って来ない。


もしかして……もう体育館裏に?


ドキドキして落ち着かない心臓の上、胸元を手でおさえて深呼吸。
息を吐き終えると私もそろっと教室を出た。


< 134 / 213 >

この作品をシェア

pagetop