いつだってそこには君がいた。



首を傾げると言葉の続きを待った。



「ずっと言いたかったんだけど、いつも近くに空斗か沙月がいるからなかなか言えなくてさ……電話やメールじゃ嫌だし。顔、ちゃんと見て言いたくて」


「うん」


「日高がいたから、俺、辛い受験勉強も乗り越えられた。正直もうダメだって、しんどいからやめようって思ったこともある。でも長電話に付き合ってくれたりさ、時々俺のこと励ましてくれてたろ?……マジで助かってた」



感謝の気持ちをストレートに述べる彼に頭を左右に振った。


ちゃんと伝わっていたんだ。
なにか高橋くんにできることはないかってずっと考えていた。


けれどなにをしたらいいのかわからなくて、口下手だし、不器用だから高橋くんの役に立てていないってずっと感じていた。


それが覆されて、心が清々しく晴れていく。



「どうやったら感謝の気持ち伝えられるかなって思った時に、聞いたんだ」


「……?」


「これ」



差し出された手のひらを見る。その上にあったのは……ボタン?


ふと高橋くんの胸元に視線をやると、上から二番目のボタンがなくなっているのが確認できた。


酸素が、すうっと遠くなる。



「これ、女子が欲しがってるって聞いてさ。日高さえ迷惑じゃなかったら……」


「うそ……いいの?」



心臓が大きく弾んで、そのまま全身に血液が巡っていく。
頷いたのを見て、指先で受けとると空にかざした。太陽の陽射しが当たり、きらりと光る。


ずっと好きな人の心臓部分にあったもの。
青春の三年間、ずっと彼の心に寄り添っていた第二ボタン。
それが今、私の手のひらの中にある。



「嬉しい……ありがとう」



目を見てお礼を言うと彼は目を見開いて「へへっ」と笑うと人差し指で鼻の下を照れ隠しで摩った。


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