いつだってそこには君がいた。
彼が次々とかばんの中にペンケースやさきほど配られたプリントを詰めていく。
「あー、父性本能ってやつ?守ってやろうと思って?」
本気なのか冗談なのか判断のつかない言い回しだった。クスクス笑ってはいるのだけど、私を守ろうとして行ったことなのは伝わる。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。私が不甲斐ないばっかりに、結城くんがやりたくもない仕事を自ら引き受けてくれたかと思うと心がモヤモヤする。
「バーカ」
その一言と共におでこに降ってきた結城くんの大きな手がそのまま頭をふわふわと撫でる。
「ゆりりんはなにも気にしなくていいんだよ、俺がかってに立候補したの、ね?」
「うん……」
「ゆりりんは人前に立つの苦手じゃん。俺がそういうのはやるから、一年委員頑張ろう」
「結城くんが優しい……」
「俺はいつだって優しいよ」
「いつもは意地悪だよ」
「失敬な」
結城くんと繰り返した会話に、負の感情に覆われていた心が温かく溶けていく。笑顔がそこから表情に現れる。
学級委員なんて不安しかないけれど、結城くんのお陰で少しは頑張れるかもしれない。そんな気がして来た。
「帰るぞ」
「うんっ」
頷いて席に戻ると準備を済ませ、ふたりで教室を出た。
そして私は知らなかった。あまりに無知で幼稚だったんだ。
運命の歯車が少しずつ噛み合わなくなっていたこと、私が誰かと笑いあっている姿は不特定多数の誰かの瞳にきちんと映っていて、大切な人のことさえ傷つけていたこと。
この時の私はまったく気づけていなかった。