いつだってそこには君がいた。
それから二時間が経って、私たちはそろそろ帰ろうかという話になった。
夕陽が沈み、辺りは薄暗くなっている。
「送っていくよ」
「あ、ううん、いいの。先に帰ってて」
「え?」
「人と会う約束がある、から……」
そこまで言って黙る。
例えば想像通りのことを田中くんに言われて、私はなんて答えればいいのだろうか。
好きな人がいるからと、断るの……?
私が……?
「日高?」
「えっ?」
「誰と会うの?」
真っ直ぐ私の目を見る高橋くんにたじろいでしまう。
「同じクラスの、田中くん……」
目線を泳がすように、彼から外しながら答えた。
言うか迷った。でも隠すのも変だろうと思ったのに、この妙な痛い沈黙はなに?
「も、もう行こう……っ?」
かばんを肩にかけて歩き出した時、腕を高橋くんに掴まれて立ち止まる。
咄嗟の出来事に身体が固まってしまった。
ゆっくりと振り向いて、握られた手をなぞるように目線を彼の顔まで持っていく。
「……行くなって言ったら」
弱々しく、かすれた声。
「行かない?」
前髪が高橋くんの顔に陰を落としていた。
言われた言葉の意味を理解することに苦しんで、私は一瞬の間だけフリーズした。
このタイミングで、目の前の彼のことを可愛らしく思うのは変、だろうか……?
噛み砕いて彼の言葉を理解し終えると、私の体温が内側から上昇していくのがわかる。
あまりに無垢なお願いに赤面してしまう。
行かないでと言った彼が世界で一番愛おしい。