いつだってそこには君がいた。
大好きだ。そんなことできないとわかっていながら、伝えてしまいたいとさえ思う。
「ごめんね」
息を吸う。ゆっくりと続きを話した。
「行かないと、田中くん困っちゃうと思うから行くよ」
私は田中くんの連絡先を知らないし、今日行けなくなったと伝える術がない。だから行くしかない。
それでも行かないでって言ってくれたこと、とても嬉しかった。
告白かそうじゃないかは私にはわからない。だけど、もしそうだったとしたら勇気を持って私は断ることにするよ。
高橋くんが好きだから。
「そ、っかぁ……」
苦しく笑って、彼が私の腕から手を離した。そこから体温が消え、心が冷たい風に晒されたように凍える。
今の気持ちを、なんて言葉にして伝えたらいいのかわからない。好きだとは言えないけれど、なにか伝えておかなければいけないと思うのに、台詞が出てこない。
「んじゃ帰るわ、俺」
「うん……」
「日高も気ぃつけて帰れよ」
「うん、ありがとう」
このままでいいのかわからない。
高橋くんの背中が遠ざかる。心なしか、哀愁が漂って見えた。
そのままなにも言えないまま、私はその場に立ち尽くして彼のことを見送った。
***
私も少し遅れて図書館を後にした。こんなに遅くまで学校に残るのは高校生になってから初めてで、暗くなった景色に心の色まで落ちていくよう。
なぜかは不明なのだが憂鬱な気持ちになってしまう。高橋くんの「そ、っかぁ」と言ったときの表情があまりに辛そうで、思い出すと胸が痛くなる。
私、間違った返事をしちゃったのかな。
悶々とした気持ちを抱えたまま教室に行くと、そこには田中くんがいた。
待たせてしまったかと焦るが「日高さん」と嬉しそうに名前を呼ばれて狼狽えてしまう。