いつだってそこには君がいた。
私はゆっくりと地面を踏みしめて、田中くんのもとへと歩いて行った。
教室の電気はついていなくて、月明かりだけで視界が保たれている。
昼間と違った雰囲気を放つのは、時間帯だけのせい?
それとも彼とふたりきりだから? これから話される事柄に、ドキドキしているから?
「ごめん、急に呼び出して」
「ううん、大丈夫だよ」
田中くんの机の上に彼の荷物が置いてある。エナメルの野球用のかばんとスクールバッグがそれぞれあった。
彼は緊張した面持ちで立ち尽くしていて、目線が合わない。私は目線を下に向けて、両手のひらを握り合わせると話出されるのをひたすらに待つ。
田中くんの緊張が伝染してくるように、私も緊張してしまったようだ。喉が乾く。まばたきの回数も増えた。
「俺さ……」
ようやく口を開いた。瞬間的に顔を上げる。
「日高さんのこと、好きなんだよね」
ぐっと握り合う手に力が入る。心臓に届いたように痛みと共に温かいものが湧き上がってくる。
予想したくても、自尊心の低い私は予想しきれなかった未来が本当にやって来た。
けれど、自分の中で答えはとうに出ている。
それでも純粋に、誰かに好意を寄せられたことに対して戸惑いももちろんあるのだけど、それ以上に嬉しい。
人を好きになることがどういったことか、高橋くんに恋をしている私は知っている。
だからこそ、勇気を振り絞って告白してくれた目の前の彼に、誠意を持って応えなければならない。
「ありがとう、田中くん。でも私、好きな人がいるの」
包み隠さずに、胸の中で育てていた恋心をそっと見せびらかすように軽く微笑む。
私は素敵な人に、素敵な恋をしています。
それは胸を張って言えることです。