いつだってそこには君がいた。



「そう、なんだ……」


「ごめんね。でも告白してくれて、嬉しかった」



生まれて初めて誰かに「好き」だと言われた。気持ちを伝えたもらった。この記憶はこの先もずっと消えないと思う。


大切な思い出として私の中にきっと残る。そんな予感しかしない。



「あーあ、振られちゃったかぁ……」


「えと……」


「ごめん、こういうこと言われると普通に困るよな。でも結構しんどいね」



傷ついたように乾いた笑いを吐き出す田中くんが無理に表情を保っている。


申し訳ない気持ちが心の中で溢れかえるけれど、私の中で揺るぎない気持ちははっきりしていて、頭に浮かぶどの言葉も彼にかけるものではないなという結論に至る。


ごめんなさいの謝罪も、好きな人がいる現実も、もう既に彼に告げているし、重ねても暴力にしかならない。かといってまたありがとうと言うのも違う気がする。


こんな時、高橋くんなら相手にどんな声色でどんな言葉をかけるのかな。


私には、わかんないや……。



「ごめん、そろそろ俺行くわ」


「うん……」


「気をつけて帰れな」


「ありがとう、田中くんも」


「うん、また明日」



そして教室にひとりぼっちになる。
自分以外の息づかいも聞こえずに、無音状態に虚無感に苛まれる。
すっかり日は沈み切った空は真っ暗。星と月が輝いているのがなんだか幻想的。


もう、夜だ。今日は一日すごく長かった。


深く息を吸って、吐く。


濃い一日を思い返して私は家路につくことにした。


すごく眠たい気分だった。


< 182 / 213 >

この作品をシェア

pagetop