いつだってそこには君がいた。
唇をくっと噛むと「ああ、そうだよ」と、結城くんが言う。
「俺があいつを好きで、なにが悪い」
周りが騒つく。私は口元を手で押さえた。
……知らなかったと言ったら嘘になる。ずっとそんな気はしていた。だけど知らないふりをしていた。
結城くんの気持ちに気づいてしまったら一体どうしたらいいのかわからなかったし、なにより友情が壊れると危惧していた。
なによりもそのことが恐ろしくてならなかった。
「お前ら二度とあいつに関わんな」
面食らっていた田中くんに加え、雪菜ちゃんたち女子三人をも睨みつけて威嚇した。
そして振り返ってこちらに来ると、私の手を握って歩き出す。
私は前のめりになりながら唇だけを動かして彼の名前を呼んだ。声にならない。
掴まれている手首を見る。先ほど言われた結城くんの言葉が頭の中で永遠リピートされる。
ーー『俺があいつを好きで、なにが悪い』
友だちだと思っていた。これまでも、これからも。
ずっとそばにいて、結城くんには沢山支えられた。
脳裏で沙月ちゃんの顔が浮かんで離れない。
結城くんの想いが私の勘違いであればいいのにって思っていた。沙月ちゃんへ向かえばいいのにって願っていた。
でも、そうじゃなかった。
「結城くん……っ」
ようやく声に乗った彼の名前。立ち止まった結城くんが振り向いて、私の手を引いて抱きしめた。
一瞬の出来事だった。
誰もいない廊下で、結城くんが思いの丈をぶつけてくるように腕の力を強める。
「ごめん、俺、全部わかってるから」