いつだってそこには君がいた。
後頭部に添えられた手が震えている。いや、結城くんの身体が大きく震えているようだ。
もしかして、泣いてるの?
「ゆりりんが誰を好きか知ってる。自分が誰から好かれてるかも知ってる」
声も、震えている。
私はただ黙って結城くんの言葉を聞いた。
「でも気持ち抑えらんなかった。中学の時からいつも陰で頑張ってるゆりりん見てたら、いつの間にか好きだった」
こんな弱々しい結城くんを私は初めて見た。
いつも完璧でクールな彼がこんなに取り乱すほど……。
それほど、想われているなんて考えれば考えるほど先が見えない。
とても振り解けない。抱き締められているこの腕を、払うことができない。
大切に想われている。伝わってくる。
私が誰を好きで、自分が誰から好かれているか知っていて、それでも抑えられなかったほどの気持ち。聞いた、伝わった。
無碍に、できない。
どうしてだかわからないけれど、涙が溢れてくるのだ。悲しくなる。苦しくなる。
自分の感情が、わからない。
友だちの男の子に好きだと言われた。親友の好きな人だ。好きな人の親友だ。
いろんなしがらみがあるとわかっていても、結城くんは真っ直ぐに私への気持ちを持っている。
田中くんの時とは違う。全然違う。
私、この人のこと、傷つける覚悟ができない。
「……なにしてんの」
届いた声に思考が停止した。
はっとして顔をあげると、すぐ向こうには沙月ちゃんと高橋くんの姿があった。
目を真っ赤にして、今にも泣き出しそうな顔をした沙月ちゃんの表情。
高橋くんは困惑したように瞳を揺らしていた。