いつだってそこには君がいた。
扉をスライドさせて、中に足を踏み入れる。
鼻をくすぐる独特な匂いに変な安心感を覚えた。
あんなに楽しくて、当たり前にここにいたのはまだほんの二、三ヶ月前のことのはずなのに、もう懐かしく感じるだなんて……。
でもあの頃とはもう違う。私は高校生になったんだ。
自分を取り巻く人間関係も変わった。変えてしまった。
私の、存在が。
仲良しだったはずの幼馴染の仲に、亀裂を入れた。
親友の恋の邪魔をした。うまくいけと私も願っていた恋だった。
最後に見た大好きなふたりの悲しそうな顔を思い出す。大切なのに、あんな顔をさせてしまった自分が嫌で嫌でたまらない。
「懐かしいな。日高が引っ越してきたときのこと、今でもはっきり覚えてる」
懐かしそうに顔を綻ばせ机を撫でる仕草。
「めちゃくちゃ挙動不審でさ、例えるなら怯えて震える子犬だった」
「っ、なにそれ……」
精一杯に含み笑いをしたからか、震える声がくぐもった。
高橋くんが優しく微笑み、私の手を握りしめると教壇のところまで誘導する。そしてあの日を再現するかのように立たせた。
高橋くんも同じように廊下側の一番前の席に座り、私のことを見上げる。
……おかしいの、私。さっきから涙が止まらない。
「助けなきゃって思った。この子は守ってやらなきゃって一瞬で思ったよ」
「……っ……」
「それは今も思ってる」
次々と流れてくる涙を何度も拭うのだけど、全然追いつかない。
心の中ぐちゃぐちゃで、なにごとも考えられない。
だけど、確かなことがひとつだけある。
ここで過ごした一年の記憶は、今でも心の中で暖かい。
ふたりとは辛い受験も一緒に乗り越えた仲間だ。
私のせいかもしれない。ふたりのこと、たくさん傷つけたかもしれない。
そんな私がこんなこと願うのはお門違いかもしれないけれど、どうかこれだけは願わせてほしい。
私は、明日からもみんなと一緒にいたい。