いつだってそこには君がいた。


「日高」



不意に私を呼ぶ、優しい声が届いた。



「全部俺に教えて。日高の心の中、俺に見せて」



優しい声に導かれるように私は高橋くんのもとへ歩いて行く。


すぐそばまで寄ると、彼の膝もとに倒れこむように座り込んだ。その刹那、高橋くんが私の両手をしっかり掴み取り、私は溢れる涙をそのままに彼の顔を見る。


昨日と今日で起きた出来事を、つぎはぎの言葉を並べて説明した。


きっとわかりにくかったと思う。
たくさん噛んだし、鼻声だし、自分でもなに言ってるかわからなかったし。


だけど高橋くんは何度も頷いて、目を見て話を聞いてくれた。



「結城くんに、好きって、言われた……でも、私は高橋くんが好きだから……っ」



口走ったあとに、言ってはいけなかったことに気がついた。咄嗟に手で口を覆おうとしたのだけど、高橋くんがそうはさせてくれなかった。


握ったままの手に力を込められて、びくともしない。



「大丈夫、続けて」


「……っ……」



ゆっくり、頷いた。



「結城くんは大切な人だし、傷つけたくない。でも、沙月ちゃんのことだけは傷つけたくなかった。だから……」



こんなの、いけないことだと思うけれど。



「どうして私なんかを好きになったのって、結城くんに思っちゃった」



結城くんに少しの怒りが湧いた。こんなの身勝手なワガママすぎる感情で、好意を抱いてくれる男の子に対してめちゃくちゃ失礼な意見なのだけど……。


結城くんが私ではなく、沙月ちゃんのことを好きになってくれていたらって、すごく、すごく思うの。


ダメだよね。いけないよね。自分に向けられた気持ちを、操作したいって、自分じゃない方向に修正したいって、そんな考え。


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